地球規模での環境、都市環境、21世紀の資源・エネルギーなど、自動車を取り巻く環境はますます重要なものとなってくる。燃料電池はそれぞれが特徴を持ち、課題の解決を目指す次世代の自動車用電動力源としての開発が活発に行われている。
水素燃料電池車
- ゼロエミッションである:排出ガスは水蒸気と、酸素を消費した排空気のみであり、有害な排出成分がない。
- 高効率である:水素燃料電池はセル性能が高いことに加え、余剰水素を再循環することで、燃料の利用率を100%近くにすることができる。通常、燃料は利用率=80〜90%で燃料電池に供給される。改質型燃料電池で排熱料中の水素濃度が低下し、燃料電池の燃料としての再利用は不可能で、改質器の蒸発・改質に必要な熱源として消費される。水素燃料電池システムにおいても、再循環を長時間続けると水素中の不純物濃度が次第に高まるため、一定時間をおいて系外へパージされる。
- 始動性・応答性に優れる:PEFC本体は常温での発電が可能であり、水素と空気を供給すれば直ちに始動する。改質器に伴う始動前の暖機および過渡応答時の熱供給の問題がない。
- 制御が容易である:水素燃料の供給は、循環系内の圧力を一定に保持するように制御すればよく、単純な圧力調整器のみで成り立つ。
- システム構成が簡素化できる:複雑な改質器を伴わないので、システム全体が簡素になり、コンパクト化が容易である。
メタノール改質型燃料電池車
- メタノールは300℃程度の温度で改質でき、オンボードで水素を生成し燃料を供給することが比較的容易にできる。メタノールの燃料性状を他の液体燃料と比較したものが表1である。発熱量はガソリンに比べ約1/2と小さいが、燃料電池による発電効率はガソリン内燃機関の約2倍以上が期待されることから、同等の燃料搭載での走行距離はほぼ等しくなる。メタノールの改質触媒には、主としてケミカルプラントで使用されるCu-Zn系触媒が用いられる。水蒸気改質反応は、CH3OH+H2O
→ CO2+3H2 により水素を発生する。この反応は吸熱反応であり、外部からの熱供給を必要とするが、もともとのメタノールの発熱量27kj/mol(HHV)に対し、発生した水素の発熱量は286kj/mol×3=858kj/molとなり、改質により燃料のエネルギーが増加する。外部からの熱供給は通常、燃料電池の余剰燃料を触媒燃焼などによって得た熱を利用する。メタノールから水素を取り出す反応として、部分酸化による改質反応もある。これは、CH3OH+1/2O2
+2N2 → CO2+2H2+2N2の反応によるものであるが、この反応は発熱反応であり、エネルギーの損失を伴う。式中のN2は、酸化剤として空気を使用することによるもである。部分酸化反応は、反応が自発的に進行し、始動性、応答性に優れるという利点を持つ。ただし、急速に反応が起きると改質器部分の温度が上昇し、触媒の耐熱性が問題となることもあるので注意が必要である。
炭化水素改質型燃料電池車
- 水素やメタノールは燃料電池用燃料として使いやすい燃料であるが、自動車用燃料として大量に普及させるには、燃料の製造、輸送、供給のインフラを整備する必要がある。これに対して、ガソリン、軽油、天然ガス、LPGなど既存のインフラが利用できる炭化水素系化石燃料を燃料電池車用燃料として使用する方法の検討が進められている。炭化水素系燃料の改質には、改質反応が約800℃の高温であること、カーボン析出による触媒の耐久性劣化や硫黄分の含有による触媒被毒の問題があげられる。
ダイレクトメタノール燃料電池車
- メタノールを改質して水素を取り出し燃料電池の燃料とする方式は、改質器の始動性、応答性や改質器そのものの重量、コンパクト性などが課題となっている。ダイレクトメタノール燃料電池は、改質器を使わないで、メタノールを直接、燃料電池に供給して発電を行うものであり、改質器に伴う問題を回避することができる。ダイレクトメタノール燃料電池は1970年代に硫酸やアルカリ水溶液を電解質に用いる系で行われていたが、固体高分子型燃料電池用として優れた水素イオン交換膜が開発されるようになって、再び注目されるようになった。
本田尚士監修、環境菌の新しい燃焼工学 p552、フジ・テクノシステム(1999)
出展
書名 電気自動車ハンドブック
著者 電気自動車ハンドブック編集委員会 編
出版 丸善株式会社 (URL http://www.maruzen.co.jp)
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