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充電システムの日米間の標準化に向けた取り組み


充電システムの日米間の標準化に向けた取り組み

90年代に行われた、充電システムの標準化の経緯について前回に引き続き解説します。これから、行われるかもしれない、電気自動車の標準化について何らかの参考になればと思い書いてみました。

5.SAE-JEVA会議での日米間の標準化に向けた取り組み
  IWCでは充電システム、充電スタンドの考え方のコンセンサスをとっていきましたが、具体的に充電システムを決めるためには、各社が使える標準化を進める必要があります。我々日本の自動車メーカーもカリフォルニア州で電気自動車を販売するために、電気自動車の標準化の委員会に入っていかなければなりませんでした。
  当時は、日米間では大きな問題を抱えていました。米国の自動車産業が今日と同じように苦境に立たされており、日本の自動車会社の販売が大きく伸びていた時期でした。日米貿易摩擦という言葉が使われていた時代です。連邦議会では日本の自動車メーカーの進出が問題になり、お店では日本製の自動車壊しが、客寄せの道具に使われるような時代でした。
しかしながら、SAE、Big3は新しく到来する電気自動車の標準化という共通の課題に対して、日本の自動車メーカーに対してドアをオープンに開き、日米共通の標準を作ることに努力をしてくれました。

  91年以降、SAEでは多くの委員会をつくり標準化のための議論が行われてきました。充電システム、安全性、試験方法、バッテリ等の標準化が行われてきました。
  中でも最も大きな課題は、充電システムの標準化でした。これ以外の標準化については大きな議論もなく、選定された企業が書いた草案をもとに比較的すんなりと決まっていきましたので、私の電気自動車の戦略、企画に関する仕事の中心も、充電の標準化の比重が高くなっていきました。

  充電システムの標準化について決めていかなければならない課題として以下の4つがありました。
- 充電のカテゴリー
- 充電システム(カテゴリー毎)
- 充電コネクタ(カテゴリー毎)
- 充電通信プロトコル(カテゴリー毎)

  この内容について、上述した7社が小委員会を作って標準を作っていきました。もちろん中心になったのはGMとFORDですが、日本の自動車会社としてもできる限りの貢献をしていくことで作業が進められました。
  更に、大きな問題は標準化について、米国と日本のハーモナイゼーションをきちんと行うことでした。日本独自の基準を作ることは、輸出産業として生きている自動車会社にとっては大きな障害になってしまいます。全く違うものを規格化した場合、国際問題(非関税障壁)になる懸念がありました。
  このために、我々が行ったことは、SAEと日本で電気自動車の標準を作っているJEVA(旧日本電動車両協会:現在JARI日本自動車研究所)と連携をとり、日米で合意をしたうえで標準を作ることでした。月に1回のペースで、主として米国でSAE-JEVA会議が開催されました。第1回の会合はUSCARという組織体の会場で行われました。
  更に、この会議の下にワーキンググループを作り、週1回ペースで、Big3のエンジニアと充電機システムの打ち合わせを行っていきました。
  98年までには十分な時間がありそうですが、差し迫っていました。開発、合意、検証というプロセスを踏まなければ、標準化ができないからです。又コネクタや充電システムの標準ができなければ、自動車会社は車の計画を作ることすらできません。98年モデルで出すということは車が97年9月には完成していなければいけない。それから、車両の開発期間を差し引いて計算すると、標準を作るのに必要な期間は2から3年しか残されていませんでした。
  又、もうひとつの問題があります。自動車会社は標準を作るのがあまり得意ではない会社だということです。電気会社のように、製品の蓋を開けてみるといろいろな競合会社の部品が詰まっているのと違って、自動車会社は市場で厳しい競争を行っており、同じシステムを使うための協調というものには慣れていませんでした。どうやって協議を行い決めていくのか、そのやり方を考えながら進めていくという部分が多かったと思います。

1)充電のカテゴリー
  充電のカテゴリーはSAEの委員会の中で決められました。委員会で充電の話がスタートしたときは、何回か話がこんがらがってしまいました。今でも、新しく電気自動車の担当になった人と話をすると同じ経験をしますが、100Vのコンセントにつなぐケースと、家庭での普通充電を行う充電、超急速充電の話がごちゃごちゃになって、どのくらいの容量で、どんなものを作りたいのか、誰が使うのか、そのために必要なものがなにかということを聞かれるままに、答えていくと会話の中でも整理がつかなくなる経験があります。
  この混乱の背景にあるのが、超急速充電です。91年に日産のエンジニアが5分で40%の充電、15分でフル充電が可能だという、超急速充電を開発し、FEVというプロトタイプを作っていました。これは、従来の「電気自動車は仮に、いいバッテリができても、充電時間がかかって、ガソリンスタンドのように、短時間でエネルギー補給はできない」という考えを根底からひっくり返しました。この超急速充電は米国のビジネス雑誌で”Jolt Charge”と言って取り上げられ、各社の電気自動車関係者、政策関係者を、まさに”Jolt”震撼させました。当時はなかなかデータだけでは信じてもらえず、担当者は米国まで車と充電機を運び、ビッグ3のテストコースでの公開実験やCNN等のメディアに対して米国のテクニカルセンターでのデモを行うなど苦労をしました。
  この超急速充電が出てきたため、SAEでは充電というものを下記の3つのカテゴリーに分けることを最初に決め、それぞれのカテゴリー毎に標準を決めていこうということになりました。

- Normal Charge (LEVELU)
  最も普通に使う充電です。
  上述したように、6kwクラスの充電は、夜間電力で電気自動車を充電するためには、適切な電力になります。200V 30Aの電力は、電力会社との調整でも、家庭1件分の電力とほぼ同じで、技術的な問題は生じませんでした。又、ヨーロッパの電気自動車は家庭電源が200Vなので、ヨーロッパとのハーモナイゼーションの問題は全くありませんでした。
  日本のJEVAともハーモナイゼーションは取れました。
  このNormal Chargeは家庭での充電、オフィスでの充電、そして街の中の駐車場の充電機の充電を考えていました。全体の充電の95%以上がこの普通充電で行われると考えています。

- Convenient Charge (LEVEL T)
  緊急用の充電でオプションを前提としています。
  電気自動車の基本は200VのLEVELU充電ですが、100V充電も便利なときがあります。充電時間は非常にかかりますが、たまに泊りがけで少し遠くに行くときなどに使える可能性があります。
  90年代には何社かが100V充電機を試作しましたが、持ち運びができるポータブル充電機を作ったところが多かった様に思います。100V充電機はコンセントにさすだけのものですから、自動車会社だけで開発は完結しますし専用になります。家庭電化製品とほぼ同じようなものなので、電力会社との調整も必要ありませんでした。

- FAST CHARGE (LEVELV)
  出先で緊急に充電を行いたい場合を想定しています。
  先ほどの超急速充電です。大型コネクタを使って10分前後の超急速充電を想定していましたが、ワット数でなかなか合意に至りませんでした。そして最終的には50kw以上ということで上限は決められませんでした。
  超急速充電は当初、日本が主導的に動いていました。FEVが60kwであったのに対して、電動車両協会では電力会社と50kwで合意し、これにあったエコステーションと呼ばれるコネクタと充電機を作っていました。(蛇足ですが、エコステーションは、深夜電力で鉛電池に充電した電気を昼間使うという不可思議なコンセプトの充電機です。深夜電力を使いたかったのでしょうが、こういう妥協をすることは中途半端なものを作ってしまうことになります。)
  日本が電力会社の意向で急速充電の最大容量が決まってきたのに対して、アメリカ側はユーザーサイドに立った充電時間にこだわりました。当時のバッテリの容量が30kwh程度でしたので、FEV並みの10分、15分で空のバッテリに満充電を行うためには、120〜180kwクラスの出力を持った充電機が必要となってきます。標準化の論議のプロセスの間に、アメリカの自動車メーカーから135kwとか200kwの充電機が実際に試作され、デモンストレーションが行われました。
  実は、FAST CHARGEへのこだわりが、後に述べるコネクタの種類、形状へ大きな影響を与えています。FAST CHARGEを行う頻度は非常に少ないだろうというのが、コンセンサスでしたが、来るかもしれないハイパーレートの充電に対応できるようにしておこうというのが、米国の自動車会社のスタンスだったと思います。

2)充電システムについて
  SAE-JEVA会議の中で、充電システムの標準は最も時間のかかった部分のひとつです。充電システムは最終的にはSAE-JEVAとしては統一することができませんでした。結果的にGMが開発したインダクティブ充電システム、FORDが開発したコンダクティブ充電システムの2種類が標準として決められることになりました。
  背景には自動車という産業が、市場で激しい技術競争を行っていたので、製品の標準化に慣れていなかったということがあったと思います。この会議のはじめの目的は、どのシステムがよいか決めて、それをスタンダードとして一本化するということで動いていましたが、最終的にメーカーが自分のシステム譲らず、2種類のスタンダードを作ることになってしまいました。 これは非常に不幸なことだったと思います。SAE-JEVAの会議をスタートしたときは、「日米の統一規格を作る。ベータとVHSのような2つの規格を市場に出すことは避ける。」という意気込みで始まりましたが、2つのシステムを市場に出さざるを得なくなりました。
  そしてこのことは、カリフォルニア州で2種類の充電機が街の中に立つという状況を生んでしまったのです。インダクティブもコンダクティブも数が多かったので使う面で不便は感じませんでしたが。
  又このことは、数年後に、CARBがカリフォルニア州での充電機をコンダクティブに絞るという歪んだ決定をさせてしまうことになります。米国では標準はANSIが権限を持っており、その傘下の組織であるSAEが技術的に決める立場にありました。市場に導入する充電システムの種類を、政治機関であるCARBが決定したことは残念なことです。
  私はGMが開発したインダクティブのワーキンググループに入っており、車両を商品化した際もインダクティブを使いました。トヨタ、日産が日本で販売した電気自動車にも米国と同じインダクティブ充電機が使われました。

  SAE-JEVAの標準の論議から離れて、インダクティブとコンダクティブの特徴について少し解説したいと思います。回路から見ると、インダクティブとコンダクティブは、実は充電機としては、原理的な差はあまりないのです。
  インダクティブも、コンダクティブも、充電機は200Vの電源を一旦高周波に変換して、それをトランスで昇圧し、その後整流し直流にしてバッテリを充電します。
  インダクティブの場合にはその中のトランスの部分を分割し、トランスの1次側コイルを地上に設置された充電機につけ、2次側コイルを車両に搭載し、充電の時にはその1次側のコイル(コネクタ)を車両に、挿入するという形をとっています。 最大の違いは、充電機の主要部分(高周波変換と昇圧)を地上側におくか、車両に搭載するかの差になります。

  それぞれに、長所と短所はありますが、ユーザーの立場に立てば、インダクティブの方が便利です。コネクタであるコイルが完全に絶縁されているので、大雨の中でも安心して充電できる点です。電気自動車用のインダクティブ充電機はもともとヒューズエアクラフトが海中作業用のコネクタとして開発したものだそうですが、小さなインダクティブ充電機は電動歯ブラシなどでも使われているので、最近はなじみが出てきていると思います。
  コンダクティブは、すべてが車載になるので、地上側の設備は比較的簡単になります。それでもコードとスイッチとGFCIをおくことが必要になります。充電機は車側に搭載されます。このため、充電スタンドのコストはわずかですが、コンダクティブのほうが安くなります。わずかだといったのは、充電機は量産されれば、コストはどんどん安くなっていきますが、設置のための工事費はほとんど下がりません。そのためそれほど大きなコスト差にはならない、むしろ車両と一緒に充電機を交換しなければならないコンダクティブは、全体で見れば高くなる可能性もあります。

3)充電コネクタについて
  SAE-JEVAの議論で、簡単な様で大変なのが充電コネクタでした。インダクティブの充電コネクタはGMが開発していたので、すぐに決まったのですが、コンダクティブについては意見が大きく分かれました。ただし、コンダクティブのコネクタまで、何種類にもなることだけは避けようということで、自動車会社による、多くの実験と調整が続きました。
  問題になった点はいくつかありました。第1番目はLEVELU充電とLEVELV充電を同じ車両側の受け口で共用するのかという点、第2番目は充電のコンタクタ(金属製の接点)をどういう構造にするかということです。
  1番目の問題は、いろいろなアイディアも出されましたが、2種類の充電口を車に搭載することはやめて、LEVELU充電とLEVELV充電とも同じ充電口を使うということで決着がつきました。
  これは将来の技術の進歩を考え、急速充電が普及する時に、新たな充電口を設けるということはやめたいということです。また、顧客の利便性を考え、操作がハンディキャップのある人でもしやすく、駐車場でも簡単に操作ができるということを考えると、取り付けられる場所は限られてきました。少なくとも、ガソリンの給油口の位置は、公共駐車場での充電の際には使えない、給電口は車両の前部に搭載すべきだというのが、自動車の専門家のコンセンサスでした。このスペースの中で、2ヶ所の充電口を確保することは非常に難しく、現実的にガソリン車の派生車として電気自動車に設けようとするとほとんどの車で不可能になります。
  第2番目の問題は、コンタクタの問題ですが、これには大変な時間がかかりました。試作レベルで電気自動車を作るときには、電流容量と耐圧から、市販されているコネクタの中から、適当なコネクタを探してきます。そしてこのコネクタのほとんどが、丸い棒状の接触端子(Pin)を円筒状の端子(Sleeve)の中に挿入するタイプを使っています。このタイプのコネクタをPin&Sleeveと呼んでいましたが、ヨーロッパで、特にフランスで使われていた接触端子は、これとは違い金属の平板にPinを突き当てるタイプBut Typeと言われる物でした。
  実験目的で車を作って走るならば、市販コネクタを使っていて何の問題もないのですが、10年以上、場合によっては20年ぐらい使われる可能性のある充電口のコンタクタは、確実な耐久性が要求されます。
  コネクタの耐久性はカタログ上では高い挿抜(抜き差し)の耐久性を誇っています。数万回の抜き差しは問題がないと思われました。
  又、Pin&Sleeveのコンタクタはマルチコンタクタという金メッキを施した繊細なバネが入っており、これが接触抵抗を下げています。
  大電流を使うLEVELV充電ではこの接触抵抗が重要になりますから、マルチコンタクタによる接触抵抗の減少は魅力的な性能です。不安な点は自動車の使用環境で、果たしてこのコンタクタが耐えられるかということでした。
  自動車の充電コネクタは雨ざらしで、しかも車の充電口には蓋をしたとしても、泥などの付着は避けられません。又、コンクリートの床面に落とされるようなことは日常茶飯事で起きると考えられます。マルチコンタクタが、はたして泥の付着するような条件化で耐久性があるのか、更にButt Typeは突合せなので、泥がついたときにでも十分に低い接触抵抗を確保できるのかどうかが論点となりました。これは、双方が譲らずなかなか決着がつきませんでした。
  このため、各社のコンタクタ可能な限り集め、第3者機関に評価をしてもらうことになり、UL(Underwriters Laboratories)が実験を行いました。結果はButtタイプがコネクタに良好な成績を収めました。Pin&Sleeveのコンタクタの中でも、マルチコンタクタのついたコネクタは清浄な状態では性能がよいのですが、泥が付着した条件ではわずかの汚れでも短いサイクルで破損してしまうことが分かりました。
  この結果から、コンダクティブタイプのコネクタは、Buttタイプのコネクタで標準の検討が進むことになりました。このコネクタはアメリカとフランスでは多く使われています。

4)充電通信プロトコルについて
  SAE-JEVA会議では、充電機と車の間のプロトコルについて論議が行われ、SAEの標準が作られました。この標準は既に決まっていたSAE1850という通信規格をベースとしています。
  しかしながら、緊急で充電機と車両との間の通信が本当に必要だったのは、インダクティブ充電だけになります。インダクティブ充電の場合には、充電機コネクタを差し込むと、充電機と車両の間で信号のやり取りが開始され、必要な出力、充電打ち切りなどの情報が、車側から充電機側のほうに送られます。このプロトコルにはアプリケーションレイヤーとして、充電機を介して、車と家庭を結ぶ通信手段も対応できるようになっています。当時パワーラインキャリアーを使った通信手段に車の充電をコントロールすることが、かなり議論されました。この最大の目的は、電力ピークに達したときのデマンドコントロールです。夏場に電力がピークに達したときに、電力会社からの指示を元に自動的に、充電を短時間15分程度、打ち切るようにしようとするものです。この場合、電気料金は当然安くなります。電気自動車の充電はデマンドコントロールの対象として、エアコン以上に有力視されていました。
  コンダクティブはオンボード充電機ですから、充電機と車との通信は車両の中で完結します。
  急速充電のプロトコルの標準についてはSAE-JEVA会議では決まっていません。通信ライン用のピンだけを決めただけです。絶対に必要となりますが、将来の課題として決定までは至っていません。


コラム著者: 平野 宏和
Nissan Research & Development(USA)でEV企画を行い、
日産自動車でハイパーミニの商品企画を担当した。