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電気自動車と充電インフラの良い関係


電気自動車と充電インフラの良い関係

電気自動車の要素の一つである、街の中の充電システム、いわゆる充電インフラ、というものについて少し考えてみたいと思います。

1.電気自動車と充電インフラの良い関係

  この電気自動車は2000年にデビュー、発売されました、このときのテレビコマーシャル、新聞広告で使われた写真です。生まれたての電気自動車が宇宙空間を漂い、そこには、まだへその緒がついています。この絵が象徴しているように、電気自動車は、動き回るためには、外部からの栄養として電気をもらわなければなりません。このために、電気自動車は充電のためのシステムが必要になってきます。
  私も毎日この車に乗っていますが、行く先々の駐車場に充電システムがあればどんなに便利かと思うことがあります。
  普段は、夜中に家で充電していますから、出かける朝はいつも満充電になっており、なんの心配もなく走り回っています。家が神奈川県のちょうど中央部にあるので、県内の移動では往復60km未満なので問題ありません。ただし、たまに出張で長距離を走るときは、片道走行するのに電気は十分なのですが、帰りは残量計を見ながら走り、不安が募ります。行く先に、充電機がおいてあればと思うのです。
  アメリカのカリフォルニア、フランスのパリやリオンの街ではショッピングセンターや公共駐車場、そしてオフィスには充電機が設置されています。以前、ロサンゼルスの町を電気自動車で走ったときは、全く何の心配もなく、朝から晩まで、1日中快適に走り回ることができました。その時、ロスの町に1000台位の充電機がありました。ロサンゼルスは郊外も含めて関東平野ほどの広さですが、このくらいの数の充電機があれば、会社を訪問している間、食事をしている間にも充電ができるので、全く心配はありません。(事前にインターネットで設置場所を確認してから行くので、レストランは少し限定されてしまいますが。)
  電気自動車にとって充電機のあるところはまさにオアシスです。逆に言えば、今の日本の状態は、砂漠の中に水筒だけを持って出かけているようなものです。
  この経験からも、電気自動車の普及にとって、街の中の充電システムは必要不可欠であると考えています。この充電のための社会基盤を整備するか否かによって、電気自動車の将来は、決定付けられるといっても過言ではないと思います。



2.電気自動車の充電のための社会基盤について
  街の中の充電システムについて、インフラという言葉が良く使われます。通信システムの巨大な社会基盤、電気・ガス・上下水道の社会基盤と同じように、電気自動車の充電システムも大袈裟に取られがちで、膨大な投下資本が必要だと思われる傾向にありますが、本当は充電システムというものは、他産業のインフラとは、少しニュアンスが違うように思います。
  確かに、電気・ガスが使われ始めたとき、エネルギー供給の社会システムと機器はセットで事業化されました。エジソンが白熱電球のためのGeneral Electricを作り、そして電力供給のためのEdison Illuminating Companyという巨大な会社を作ったことは有名です。携帯電話も安価な電話器と、通信システムの膨大なインフラ投資が同時開発され、社会システムとして定着しました。

  電気自動車がこれらと大きく違うのは、発電、送電、配電という電力網の社会基盤がほとんどの国で、既に存在しているということです。特に日本は、どこに行っても高圧線のネットワークができています。そして100V、200Vの低圧線はすべての家庭につながっています。電気自動車の充電システムは、長い歴史の中で築き上げられ、進化し続けている電力網という巨大なインフラに、充電コードをつなぎ込むだけで実現します。
  ただ、少し異なるのは、電気自動車はテレビやコンピュータに比べて多くの電気を使います。(通常は6kw)このため電気自動車の充電には家の中にあるコンセントでは十分ではありません。1人乗り用として販売されている小さな電気自動車は家庭用100V 15Aのコンセントから何とか充電していますが、そんな小さな車でも8時間から13時間くらいの充電時間が必要になってしまいます。4人乗りの車の場合、30時間から40時間ほど充電に時間がかかり、とても実用的であるとはいえません。
  そのため、電気自動車専用で、屋外で雨の日でもつかえる、小さな充電システムが必要になってきます。そしてこの充電システムさえ作れば、充電インフラを街の中に作ることが簡単にできるようになります。

  ガソリンから電気への変革は実現すれば、自動車にとってはダイムラーがガソリン車を発明して以来の大変革ですが、それに必要なものはインフラ(社会基盤)などという大げさなものではないのです。必要なのは電源ラインにつなぎこむ、小さな充電システムだけです。充電システムを作るということは、街のあちこちに電気自動車用のパーキングメータを付けるようなものです。設置するための金額は、信号機よりもはるかに安価にできます。

  街の中の充電システムがあれば電気自動車は確実に普及します。逆に、充電システムが街に存在しない現状では、街は電気自動車にとって砂漠のままで、普通の車として普及することは困難です。街の充電インフラ(あえてインフラという言葉を使えば)、この充電インフラと電気自動車はどちらを先にこの世に出現させるのかという、いわゆるにわとりと卵の問題を抱えています。
  各自動車会社は電気自動車に相当の開発費をつぎ込んで、製品化し世の中に出し、そして継続して電気自動車の開発は続けられています。それは電気自動車の将来性を信じているからです。しかし、電気自動車は生まれたばかりです。まだよちよち歩きかもしれません。一人前に走れるようにするには、それを支えてくれる”街の充電システム”が必要なのです。
  しかしながら、まだ日本では、電力業界も含めてどの業界も、充電インフラ作りには真剣に取り組んではいません。このため、自動車業界は自力で走行できる走行できる車を作るしか選択肢はありません。現状では、家庭充電だけに頼る用途を限定した電気自動車を作るか、ガソリンを使うしかありません。後者はハイブリッドという中途半端な形になります。トヨタのプリウスは「充電する必要のない電気自動車」のキャッチフレーズで97年に売り出されました。ハイブリッドのシステムは画期的であり、大ブレークを巻き起こしましたが、究極的にはガソリンで走る車です。電力回生や高効率など電気自動車のメリットを生かそうとしても、電気を作るガソリン発電機を車の中につまなければいけないというジレンマを抱えています。
  近い将来、”街の充電システム”ビジネスに真剣に取り組む業界が出てきて、社会システムとして車が電気で走る時代が来れば、大気汚染もCO2もエネルギーも大きな変革が期待できます。しかしそのための”街の充電システム”を、既成概念の業態に期待することは無理なのかもしれません。我々は新しい道を探す必要があるように思います。


コラム著者: 平野 宏和
Nissan Research & Development(USA)でEV企画を行い、
日産自動車でハイパーミニの商品企画を担当した。