第6回 電動車輌への燃料供給にかかる費用
1.はじめに
現在地球全体では、自動車の排出CO2は、燃料使用による排出量の約18%と見積もられ、約7.5億台の自動車は今後も増加傾向であり、車輌効率の向上要求は強い。
一方、石油資源は貴重さを増していくのも確かである。石油価格は、心理的な要因からも急激な上昇のリスクをもっている。
今回は『高い石油を大切に使う』の先の、脱石油で未来の自動車はどうなるかについて考える。
2.自動車用燃料に求められるエネルギー密度
自動車が時間を問わず、どこにでも移動できるのは、比較的限られた大きさの燃料タンクに高密度にエネルギーを搭載できることによる。
図1に、ガソリン、水素、電池のエネルギー密度を、エネルギー搭載容器込みで評価した結果を示す。デカリン等の化学水素のエネルギー密度は比較的高いものの、反応後の物質を貯める容器も必要となる。ガソリンに代表される液体燃料の優位性(高密度)は自動車の航続距離、車両重量、加速性能、荷室を含めた客室の広さなど、広範囲にわたり大きな便益をもたらしている。
3.電動車輌のWTW(井戸元から車輪までの総合効率)
電池や水素のように、搭載エネルギー密度が低くとも、効率が高い電動システムと組み合わせることによって、どの程度、その弱点をカバーできるかを見極める必要がある。
総合的な評価ツールに、Well-to-Wheel(井戸元から車輪までの総合効率)がある。ガソリン、軽油の場合、原油採掘から給油までの燃料効率は、将来約85%といわれる。
Well-to-Wheel(WTW)の効率を各種機関が公表している。(図2)
それらの検討条件を表1に示す。
井戸元から燃料タンクまでのWTT(Well-to-Tank)、即ち水素燃料を製造し、運搬し、充填する経路での効率の低さが、FCVの総合効率を悪化させている。
しかし、石油を大切に使うという条件の範囲で、WTW効率は意味があるが、脱石油が目的の水素燃料や、電力そのものを使用する電気自動車については、WTWの概念では表現しきれない部分が多くなるので、コスト面の評価が重要となる。
4.自動車用燃料の代替案
水素を含めた多くの燃料の製造、供給について解説する。(図3)
ガソリンおよび軽油は、WTT 効率が高く、原油がある限り、最も使い易い。
天然ガスは可採年数が約60年、石油のそれよりたかだか約20年長いに留まる。大半の天然ガスは中東から、LNG(液化天然ガス)で輸入されている。自動車用エネルギーとして使うには20〜35MPa に高圧化する。そのインフラ投資と充填時の圧縮エネルギー(圧縮機駆動力)が必要である。25MPa の場合、充填されるエネルギーの6%程度が圧縮エネルギーとして消費される。
LPG は、0.8MPa 程度の圧縮で液化するため、搭載エネルギー密度をCNG よりも高められる。しかし、LPG の主成分であるブタン、プロパンが石油製造、天然ガスからの副生産物であり、LPG の需要に応じて生産量を増減できない。中国インドで民生用に堅調な需要増加が見込まれている。
DME(ジメチル・エーテル、Dimethyl Ether)の分子構造は、CH3‐O‐CH3であり、含酸素燃料である。CO とH2から合成される。CO、H2の原料は、天燃ガス、石炭など、一次エネルギー種が多く存在する。DME の物性はLPG に似ており、1MPa 程度で液化する。大量生産すれば、ある程度、製造コストが下がることが見込まれている。
メタノールはDME 同様、CO とH2を合成し製造される。毒性が懸念され、自動車用代替燃料としては普及に至らなかった。
図3に示すように、石油が途絶した場合、水素は、様々な経路を辿って製造が可能である。水素は持続可能性が高い反面、経路が長いために、エネルギー効率が低く、高コストになる。水素の充填所への供給は、液化タンクローリー輸送またはオンサイト電気分解が効率がよい。どちらにしても車輌への充填時に圧縮ロスが発生する。
電気や水素は、1次エネルギー価格の安い石炭や原子力でオフサイト生産し、排出される炭素(CO,CO2)は地中に隔離するか、又DMEなどの燃料製造の原料として活用できれば、輸送部門の環境―エネルギジレンマの解となりうる。
5.代替燃料のエネルギ効率と価格の予測
脱石油自動車として考えられるシステムの代替案のエネルギ効率を比較する。
1.石炭→合成ガス→DME→(ディーゼル+HEV)
2.石炭→合成ガス→メタノール→(DMFC+シリーズHEV)
3.石炭→合成ガス→改質H2→液化→配給→圧縮充填→(H2FC+シリーズHEV)
4.石炭→電力→送電→充電→(EV)
5.原子力→電力→送電→充電→(EV)
天然ガス、バイオマス、LPGなどは量的に、脱石油となりにくい。
石炭については、CO2隔離、固定化が前提だが、この分の効率低下は同一条件として無視する。
石炭起源の合成燃料製造のLHVエネルギ効率は、DME0.56、メタノール0.54。
改質H2・・・製造効率は0.8程度。液化配給充填効率は0.75程度。
火力発電送電効率は将来予測値0.45、充電効率は0.85として試算する。
原子力の場合は、質量がエネルギに変わり、エネルギ不滅則が成立しないので、エネルギ効率の意味が無いので所内電力と送電ロスを見込んで0.92とする。
車輌効率は、走行条件と重量、充電量によりモード走行から大きく乖離するので、市場実用データを蓄積して比較しないと意味が無いが、思考実験として理論到達限界を算定するため以下の想定で算出した。
1.EV 効率 約 0.9
2.内燃機関+HEV 目標効率 約 0.4
3.DMFC 理論効率 約 0.97 DCDCと補器効率0.8 駆動部分0.9
4.H2FC 理論効率 約 0.83 DCDCと補器効率0.75 駆動部分0.9
以上の比較表を表2に示す。
以上より、石油+内燃機関効率向上で 0.35程度に比較して、H2FCVで同等のWTW効率は原子力発電とon-site電解を組み合わせて得ることができる。
石炭起源合成燃料を車輌供給する案は効率面でH2+FCVよりは内燃機関+HEVのほうが有利となる。
EVは効率面では有利であるが、航続距離の制約があり、すべての車輌を置き換えることはむずかしく、計画的な運行の可能な車輌への適用促進が望まれる。
各種燃料が将来どの程度の価格になるかを、表3(製造コストと配給と充填コスト)に示す。
表3.各種燃料のコスト内訳
これらは、欧州自動車メーカの研究共同組織(EUCAR)と、欧州の石油協議会(CONCAWE)と、EU の研究所JRC(the Joint Research Centre of the EU Commission, IES Ispra)が共同で実施した欧州版WTW(WELL-TO-WHEELS ANALYSIS OF FUTURE AUTOMOTIVE FUELS AND POWERTRAINS IN THE EUROPEAN CONTEXT)の値を引用している。
源文献は1GJあたりの価格であり、車輌効率でわって走行距離あたりの費用として、ガソリン車と比較した。(表4)
インフラ整備費用とCO2固定隔離費用を必要経費として無視すれば、合成燃料、電力とも現在の石油価格の2倍以内におさまる。水素については天然ガスが使えなければ、3倍程度と高くなる。
6.バックアップの代替案
脱石油という大きな環境変化は、自動車と燃料供給システム双方に変革と進化を要求している。
気候変動による食物不足がマンモスを絶滅させたごとく、自動車も毛皮を厚くして省エネルギ化するだけの代替案だけで、この環境変化を乗り切れるとは思えない。供給システムの変換とあわせた多様な移動システムを、長期的に開発導入してゆくことが、『生き残りのかぎ』といえる。
そのなかで、電力による供給パスは、特に重要と思われる。発電コストは計算上、投資割引率15%、稼働率80%としているが、耐久信頼性等の技術開発による今後のコスト改善に期待したい。
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