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パワー半導体素子(シリコンの限界を超えるのはいつか)

技術解説連載の開始について

  電気駆動の技術のうち、エネルギ発生から駆動トルクまでの道筋で、効率や出力などが現在制約になっている限界の技術について、すこしまとめて連載をしていこうと思います。


第1回 パワー半導体素子(シリコンの限界を超えるのはいつか)

  1983年に、日本ではじめての交流モータによるEVが登場した。これは半導体の進歩によってIGBTがパワーコントロールに実用化されたおかげである。交流化により、大トルク要求の効率が重要な車輌駆動制御の総合効率は格段に向上した。
  IGBTは、MOSFETにくらべてスイッチング損失は大きめであるが、MOSFETよりも耐電圧が高くとれ、電源電圧300−
400Vでの車輌駆動用に広く使われるようになった。
  しかし、制御の高速化が可能になるに従い、制御周波数によるスイッチング損失が大きくなる。またpn接合部の一定電圧の損失が常に発生するため、定格以下の使用条件ではあまり効率がよくない。このため高耐圧のMOSFETが待ち望まれて
いる。


  日本では、2004年3月にNEDOプロジェクト『超低損失電力素子技術開発』が終了し、いよいよSiCパワー素子の商品化の時代が始まったところである。
  簡単に、SiC 半導体の特長と課題をのべる。


  まず良い所は、シリコンにくらべて、炭化珪素の結晶(4H-SiC)の物性が耐電圧(破壊電界強度Ec)が高いということで
ある。これにより、ダイオードでは半導体層をうすくできるため、オン抵抗は理論的にはEcの3乗に比例して小さく設計できるため、電流による損失を大幅に減らせる。また電源電圧を上げて、電流をさげることでモータまで含めたシステムの小型化
設計も可能となる。
  物性的には、熱伝導度もよく、高温作動でき、素子パッケージで空冷ができて大幅に小型化ができるかもしれない。



  では実用化の課題は何か。そんなにいいのになぜできていないか、ということだが、今までは単結晶のウエハー製造が
難しく、欠陥による歩留まりが悪く、市販されていなかった。現在は4インチウエハーができるようになった。
  次は素子製造である。
2002年には独Infineon社が600V−6A ショットキーダイオードを市販した。
電源の小型化、低損失化をねらい、ダイオード適用がはじまったといってよいであろう。
  SiCバイポーラ素子は今のところ結晶欠陥による不良が多く、実用化は難しい状況にある。
シリコン半導体のスイッチング素子ではIGBTとパワーMOSFETがあるが、SiCでは、オン抵抗が10mΩcm2以下のMOSFETはいまだ実現されていない。
MOS界面に炭素があるので、チャンネル抵抗が高くなっているものと思われる。
  04年6月には産業技術総合研究所による230cm2/Vs というチャネル移動度の素子の報告もあり、製造プロセスの適用が待たれる。



これらの素子の電気駆動への適用メリットについてみると、
1.DCDC変換効率の向上
  各負荷への放電で電圧調整が必要だが、それぞれの負荷に最適な電流と電圧を選ぶ事ができる。高圧化によるハーネス小径化、リレー小型化、モータ高圧化、低損失化による冷却系簡素化など、システムとしてのレイアウトメリット大。
  また送電充電効率の向上により電気エネルギパスのCO2総発生量も大幅に減ることになる。
2.インバータ効率向上
  現在のSi IGBTのインバータ効率が車輌駆動条件では90%程度で使われるが、もしSiC化によって、物性限界の98%
程度に改善されるならば、この分のみで航続距離は10%程度改善される。しかし車輌特性で見ると波及効果で、インバータ
小型化、ラジエータ小型化による空力抵減少、重量低下、補器消費電力削減などが大きく実用航続距離は30%近く向上
するであろう。




参考書
  「SiC素子の基礎と応用」
    荒井和雄・吉田貞史 共編
    オーム社/雑誌局 (URL http://www.ohmsha.co.jp)