燃料電池自動車
次世代の動力システムとして最も期待されているのが固体高分子型燃料電池である。水素と空気との電気化学反応によって発電し、
超低公害で水素ベースで50〜60%の高効率を実現するとされている。水素は石油系燃料や天然ガスから精製し、その貯蔵・運搬には、高圧ボンベに詰める方法、
極低温で液化する方法、吸蔵物質に蓄える方法がある。これらは搭載性に問題があるので、車載型の改質システムを用いてメタノールや純度の高いガソリンなどの液体燃料から水素を発生する方法も検討されている。
メタノールでは300℃、炭化水素系燃料では700〜800℃の改質温度が必要で、冷始動やシステムの負荷応答性の問題から、二次電池が必要であり、全体が複雑にならざるを得ないのが現状である。
これに対して、メタノールを直接内部改質する直接メタノール燃料電池(DMFC)のコンセプトもある。まだ効率が低く実用化のハードルは極めて低いが、システムが簡略化できるメリットがあり、
今後の性能向上が期待されている。
天然ガスから水素あるいはメタノールを生成する場合とガソリン改質の場合の効率を比較した例を表6.8に示す。ガソリンがコストや供給体制の点で有利とする見方もあるが、
石油の消費抑制やCO2の削減には必ずしも有効とはいえない。将来、太陽エネルギー、風力からの電力やバイオマスなどの再生可能エネルギーから水素を得るアイデアもあるが、天然資源に代わってどの程度の量の供給が可能かを見極めることが必要である。
また、今後はLCAの考え方に基づいて原料生成から車輪にいたるいわば”well to wheel”の効率とクリーン度を実証的に検討すべきであろう。
現状では、各要素の高性能化、システム全体の小型化、耐久信頼性の向上、大幅なコスト低減、燃料の選択とその供給インフラの設置など、まだ難題が多く、とりわけインフラ整備が普及の最も重要な前提条件になることは間違いない。
このような状況にあって、燃料電池車の利用上の課題を探るべく、米国カリフォルニア州では2000年11月から自動車メーカーの協力を得て乗用車とバスの走行テストを始めている。また、ダイムラークライスラー社では、
メタノールを燃料とする”NECAR 5”を2004年から限定販売すると発表している。2003〜2004年には他の内外数社からも市場への投入が予告されているが、本格普及には、石油の需給状況とも関連して今後10〜20年の時間を要するものと予想される。
出展
書名 電気自動車ハンドブック
著者 電気自動車ハンドブック編集委員会 編
出版 丸善株式会社 (URL http://www.maruzen.co.jp)
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