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電気自動車用タイヤ 【3】

背反性能

  タイヤを構成するゴムと有機繊維は粘弾性素材であり、変形に伴いヒステリシスロスによる発熱でエネルギーを吸収。発散する性質を持ち、これにより滑りやすい路面でもグリップを発生し、また振動や衝撃を和らげている。 一方、このヒステリシスは内部ロスとして転がり抵抗の原因にもなっている。転がり抵抗低減にはロスの低減が必要だが、これに伴い前述の必要な機能も損なわれるという背反が起こる。
  タイヤの内部損失の中で最も寄与が大きいのは質量が大でかつ大変形を受けるトレッド部であるが、トレッドゴムのヒステリシスはグリップの源なので、転がり抵抗とグリップは厳しい背反性能となっている。特にウエット路でのグリップは 安全性に関わるので妥協が許されず、様々な両立化のための技術が開発されているが、なかでも重要なのはトレッドコンパウンドの技術進化である。また、低ロス化によって振動、騒音の吸収力も低下するので、車体への振動入力が増加する傾向にある。

コンパウンドの進化

  グリップ、転がり抵抗ともにトレッドのヒステリシスロスに起因しているが、関係する周波数、ひずみ領域が異なることに着目し、グリップ領域のロスは増加し、転がり抵抗領域のロスは低減するということが背反性能両立の基本的な考え方となる。 すなわち転がり抵抗に関係するのはタイヤの転動変形で、低ひずみ、低周波数であるのに対し、ウエット路で滑っている時の接地部分では、ミクロに見ると局部的に大ひずみ、高周波数の変形が発生しているので、これらの領域を個別にコントロールする技術が開発されている。
  コンパウンドは主にゴム(ポリマー)、補強材(カーボンブラックなど)、架橋剤(硫黄)、オイル、老化防止剤などの混合物で、過熱による架橋反応でポリマーの分子間が網の目に結合され強度の高いゴムになる。
  コンパウンドのロスに最も影響が大きいのはポリマーと補強剤であるが、このロスを低周波数に対応する高温領域(転がり抵抗領域)で低く、高周波数に対応する低温領域(ウエットグリップ領域)で高くする分子設計のポリマーが開発されている。
  また、補強剤であるカーボンは配合量が多いほど転がり抵抗を悪化させるが、カーボンをチェーン状に連なった構造に製造する技術が開発されており、このような長連鎖カーボンにより、必要な補強効果をより少ないカーボン量で得られるようになった。
  さらに、最近では補強剤としてシリカ(SiO2)も使用されている。シリカはコンパウンド中にミクロに凝集した形で分散し、局部的な大変形でこの凝集体がロスを発生し高いウエットグリップを得ることができる。また、シリカはポリマーと一体化するためカップリング剤を使用するので、 変形時にポリマーとの間の動きが少なく、その結果ロスの発生も少ない。しかし、シリカだけでは、高入力時の摩擦等のデメリットもあり、カーボンと組み合わせて配合する例が多い。


出展
書名 電気自動車ハンドブック
著者 電気自動車ハンドブック編集委員会 編
出版 丸善株式会社 (URL http://www.maruzen.co.jp)